コラム

2015-05-09

できること、できないことの正しい把握が二次障害を防ぐ第一歩

記憶障害以外の脳の障害は・・・・・?

脳血管障害や交通事故などによる脳損傷、脳腫瘍など、脳の病気での障害というと、一般的に思いつくのは記憶障害です。
このため、記憶障害の後遺症は、比較的に世間の方々の理解もあり、受け入れられやすいように思います。
その一方で、記憶障害以外の後遺症に関しては、余り正確には知られてなく、その結果、仕事場で同僚からの理解が得られず、ストレスフルな環境にある方々が少なからずいます。

今日はそのようなケースの中から、Aさんのケースについて記事を書いてみたいと思います。

脳出血で倒れるも、後遺症はなく・・・・・....

Aさんは40代の女性、突然の脳出血で職場で倒れました。
幸い、迅速に病院に運ばれて、すぐに処置がされたので、開頭手術の必要もなく、出血を止める薬の服用と点滴による治療がはじまりました。
入院当初は意識ははっきりしていたものの、電話中に電話していることを忘れて突然他のことを始める、メールのなかの単語の打ち間違いが多くて意味不明になるなどの行動が観察されたようです。
状態が安定しない急性期にはそのような状態がみられることがあります。
しかし、徐々に様態も回復され、2週間後には若干、左足をずって歩く程度が観察されたのみで、そのほかに特に問題はなく、3週間後には退院されました。
そして、その2週間後には、復職することができました。

え?計算ができない・・・・?

ところが、復職してしばらくすると何かがおかしい・・・単純なお金の計算が何回やってもあわず、なぜできないのか自分でもわからず・・・そんな自分自身にとまどっているうち仕事にも支障をきたすようになり・・・・。

職場の方々は、病気後の復職ということで最初は暖かく見守っておられましたが、傍目には「特に問題はなかった」ので「もう普通だ」と認識されていて、繰り返される計算間違いをうっかりミスの連発と取られるようになり、そのうち、「またか」、という目でみられるようになってきました。

しかし、一番おかしいと思っているのはAさん自身。
    「なぜ、こんなことができないのか自分でもわからない」
   「メモも取っているし、何回も確かめるのだけど、確かめるたびに答えが違う」

徐々に、「もう病気は治っている」のにミスばかりすると、周囲からの風当たりも強くなり、Aさんも、自分自身に対するストレスと同僚の方に対する申し訳なさのストレスで、硬貨を見るだけで気分が悪くなるようになりました。
そんな毎日の繰り返しが極度にストレスフルな状態をよび、食欲も無くなって、会社に行く気力さえなくなり、とうとう欠勤が続くようになってしまったのです。

所見と心理検査の結果・・・注意力と作動記憶の問題

そのような中、いったいどうなっているのか検査をして欲しいということで、コギト・ラボに来られました。
お話を伺いながら、まず推測したのは注意力の問題。
特に集中的注意に問題が感じられるように思いました。
前者は話をしているときにふと、違うことに注意がが飛んでしまい、「あれ?、話していること聞いてる?」と言ったような状態です。

それと合わせて、作動記憶(ワーキングメモリ)の問題。
作動記憶は、操作と保持が同時に行われる記憶です。
この機能が落ちることで、できなくなる処理の一つが計算、特に暗算です。
例えば、1の位のこの数字とこの数字を足したら3繰り上がり(=「3繰り上がったこと」を保持)、それと10の位の数字を足す(=「足す」という操作)といった繰り上がりの計算では、保持と操作を同時に行う作動記憶を使います。
おそらくベースに注意力に問題があって、その上で作動記憶に問題が生じていると考えられました。

知能検査と注意力の検査を行った結果は、予測通り、やはり逆唱ができないなど作動記憶の中程度の問題と、軽くはあったけれども集中的注意の問題と注意の容量の問題、おそらくそれに付随する聴覚理解の問題がみられました。

できること、できなことを見極めて新たな職場へ

その後、勤められていた職場で、認知機能に問題が残っていることを相談をされ、計算が必須の仕事であったため、退職との道を取られました。
現在は、障害者手帳を取得されて、自分にできること、できないことを見極められて、問題なくできる仕事を見つけられ新しい職場で元気に過ごされています。


認知機能に問題があるゆえに生じる二次障害に注意

脳機能の病気で多くの人が思いつくのは記憶障害です。
しかし、今日のケースのような注意障害や、作動記憶障害など世間的に認知度の低い障害は、それゆえにできない作業があることを職場でなかなか理解してもらえず、結果的に、それがストレスとなり鬱状態のような二次障害を生じる事がよくあります。
後遺症としては小さくとも、仕事によっては大きな「後遺症」になることがあるということです。

高次脳機能障害では、できることできないことをまずよく把握して、その上で職場の理解を求めたり、転職を考えるなりしていくことが重要です。

コギトラボにも、この方のように、まずは自分がどのような状態になっているのか、何ができて何ができなくなっているのか、治療云々の前に自分の現在の状態が知りたいという主訴をもって来られる方が多いです。
説明を受けてなぜこのようになっているのか納得がしたい、その上で、仕事をどのようにしていけばベストなのか、考えていきたいと言われます。
直接、それが治療につながることでなくとも、自分自身の状態をしっかり把握することは精神的な安定にもつながるのではないでしょうか。

精神の病気は目で見て確かめられない分、なかなか他者に理解してもらうことが難しい。
近年、脳科学が発達してきて様々な事柄が明らかになってきた反面、脳の病気の本質はまだまだ一般に認知度が低く、中には「コミュ障」や「アスペ」といった軽い言葉で間違った理解が一人歩きしている観もあります。

病気になろうと思ってなる人はいないわけで、心や脳の病気に関して正しい知識と理解がより多くの方々に広まる一石を投じていきたいと思うこの頃です。。

ちょっと問題意識が高いテーマだったので、のめりこんで書くうちにまた長くなってしまいました・・・。
今日の記事がどなたかの参考になれば幸いです。

**今日の記事はAさんのご了解とご協力を得てまとめさせていただきました。
  こころより感謝申し上げます。ありがとうございました。
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