コラム

2013-05-31

メーカーから依頼される英文契約書の和訳

技術翻訳の現場から


ある日、お客様から「和訳してもらった契約書、意味がわかりにくいから訳し直してほしい」とご依頼がありました。

技術翻訳を主に手掛けている当社ですが、意外に契約文書の和訳のニーズも多くあります。
企業が海外と取引するためには、常に契約書がつきものだからです。そして残念なことに多くの場合、それは英語で書かれており、和訳のご依頼を受けます。

もちろん、当社は法律事務所でもなく、法律・法務の専門家ではありません。そこで、法律文書の和訳を依頼された場合には、「御社内で参考となるよう、内容理解のための参考書類という範囲でのみ、翻訳をお引き受けします」とお断りを入れています。

契約書の原文はあくまでも英文ですから、翻訳物で署名や契約締結はできません。
きちんとした英文の契約書には、たいてい「原文は英文であり、意味を理解するために翻訳したとして、その内容に万が一、解釈の齟齬が発生するような場合には、必ず英文が優先する」というような内容が盛り込まれています。つまり、翻訳物はあくまでも補足的、参考書類、という扱いになるわけです。
当社が納品した和文の訳文は、正式な法的文書にはなりませんし、正式な法的文書とするためには、然るべき法務の専門家、もしくは法律を専門とされている翻訳家の力が必要となります。

しかし、それにもかかわらず、「原文理解のためだけのわかりやすい和訳」の、お客様からのニーズは意外に多いことに驚かされます。理由は、一般人にはわかりにくい法律用語にあると考えられます。たとえば、以下の文章。

“This Agreement constitutes the entire agreement between the parties relating to the subject hereof and shall supersede all prior proposals, negotiations, understanding or discussions, whether oral or written.”

これは “Entire Agreement” という条項で、英文の契約書ではよく網羅されている典型的な文章です。
日本語では「完全なる合意」と訳されることが多いのですが、頑張って忠実に訳すと以下のような日本語になります。

「本契約は、本契約の主題に関連する両当事者の完全なる合意を構成し、本契約締結以前に両当事者に依って為された全ての合意、理解、協議に、書面であると口頭であるとに関わらず、優先するものとする。」
・・・・この日本語が分かりにくいと思うのは、きっと私だけではないと思います。
これを、分かりやすく訳すと、以下のようになります。

「この契約は、契約内容に関して両方の当事者が完全に合意したことを意味し、この契約の締結以前に行われた両方の当事者の合意、理解、協議の内容は、それが書面であっても口頭であっても、すべて、この契約内容に取って代わられる。」

いかがでしょうか。
正式な訳文としては、「完全なる合意」や「書面と口頭とに関わらず」などの法律用語の定型句が入っている前者の方が正しいことは言うまでもありません。
しかし、意味を理解する、という目的のためには、後者の方がわかりやすいと思います。

冒頭に紹介したお客様からのご依頼に対しては、係り受けの位置を変える、長い文章を切って分ける、難解な用語を分かりやすく言い換える、なるべく否定形を使わない、などの工夫をして、分かりやすい文章に変えました。


実際に契約を締結するにも、まずは意味を理解しなくてはなりません。その際に必要なのは、正しいが難解な法律用語より、わかりやすい表現ではないか、そして、わかりやすい、という原則は、法律文書であっても技術文書であっても同じだな、と、勉強させられた一件でした。

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通訳・翻訳 山村麻紀

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