コラム

 公開日: 2011-07-14 

真田信幸

真田信幸は、高名な真田幸村の兄である。
 信幸は家康と父の昌幸が秀吉の仲介により和解した際、本多忠勝の娘を家康の養女とした上で婚姻している。
 関ヶ原の戦いの際、信幸は幸村と昌幸と決別し、家康方についた。これは昌幸が真田の家を残すためにしたともいわれているが、真相は不明である。

 関ヶ原の戦いで昌幸・幸村親子は秀忠の軍勢をさんざんに悩ませた。そのため、秀忠は合戦に遅滞するという失態を演じ、家康は数日間面会しようとしなかったとされる。
 戦後、昌幸・幸村親子は死罪を与えられるところであったが、信幸の必死の嘆願の結果、本多忠勝も家康にとりなしを頼んだことから、九度山での蟄居処分に減刑されたのである。

 その後信幸は、信之と名を改めたようである。昌幸・幸村の名前に「幸」があることから、徳川幕府をはばかったのであろう。幸村も、史料の中では信繁とのみあるが、兄が「信幸」から「信之」に改名した際、逆に「幸」の字を入れて「幸村」と改名したともいわれている。

 九度山では時折昌幸と幸村は信之に金の無心をしていたようである。そのような手紙も残っている。
 信之という人は、後の行動を見るに、人間的には父の昌幸や幸村を超える武将であったのではないかと思われる。ただ、大阪の陣における幸村の戦いぶりがあまりに見事であったがために、その名があまり今日に知られていないのである。

 大阪の陣には信之は参戦していない。幸村との内通を疑われたのだともいわれ、「弟と戦いづらいであろう」という家康からの好意によるともいわれているが、江戸で留守居役であったようである。家康はこの信之が気に入っていたようである。家康は、この時点で幸村の天才的戦術家としての能力を知らない。彼は昌幸が存命していて、大阪城に籠もればやっかいなことになるという認識があった程度である。しかし、信之は、幸村の天才的軍事能力を知っていたであろう。この点においては、信之は全く幸村の足下にも及ばなかったであろう。

 大阪の陣が終わった後の信之の心中はどのようなものであったろうか。幸村が名を馳せれば馳せるほど、その後の真田家にとってはつらいのである。徳川家からの風当たりが強くなるであろうからである。そのようなことも分からず、自分の思うがままに生きる弟を見て、信之はどのように思ったであろうか。そのような弟を応援する気持ちがあったろうか。それともそのような生き方をする弟に対する嫉妬か。あるいは苦々しい気持ちか。

 秀忠の代になると、幕府からまず国替えを命じられる。国替えといっても実質取れ高が低い国への国替えで、明らかに秀忠の嫌がらせである。秀忠は生涯関ヶ原における失態を苦に病んでいたようで、「真田」嫌いなのである。この国替えに対し、信之は「ありがたき幸せ」といわざるを得なかった。苦衷推してはかるべしである。

 その後、信之は90歳を超えるまで生き、一度隠居した後にも藩政を見なければならないような事態にもなったし、幕府からの圧迫もあったのだが、いずれもこれをしりぞけて見事真田家を生き残らせている。その生涯は、真田家を存続させることに対してのみ精力を使ったといってよいであろう。外様でしかも秀忠に嫌われながら、幕府からのあら探しにも耐え、真田家を存続させた力量はある意味では昌幸・幸村に勝るとも劣らないものである。
 真田家は明治まで存続し、子爵となっている。

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