コラム

 公開日: 2011-08-01 

新株発行無効の仮処分

個人の依頼者ばかりではなく、法人の依頼者もそれなりにいるので、たまに難しい論点の事件をすることもある。先日は新株発行無効の仮処分を申し立てられて、無事勝訴できたので、弁護士向けに表題ブログである(たまには法律論も書かないと)。

 多くの中小の株式会社では、株式の譲渡に取締役会の承認を必要としている。ところが、中には中小企業であるのに、そのような承認を必要としていない場合がある。
 こうした会社を公開会社という。
 時価よりも低い払込金額で株式の募集をする場合には、株主総会の特別決議を要するが、時価よりも高い払込金額で株式の募集をする場合には、取締役会における決議のみで新株発行を行える。
 公開会社においては、個々の株主の議決権比率維持の利益は保障されず、それよりも株式の募集による資金調達の便宜を優先させることにしているということになるのである。

 株式の時価について、上場会社であれば格別、非上場の場合、その時価が問題となる。
 裁判例上形成されてきた上場企業に対する議論は妥当せず、公正な価額の判定はさらに困難を伴う。ただ、多くの中小企業では、帳簿の棚卸しをすれば、実勢の株式価格を純資産方式で計算すれば0円ではなかろうかと思われる。
 この点、株式価額の算定方式としては、配当還元方式、収益還元方式、類似業種比準方式、取引先例価格方式、純資産価値法、変動加重平均方式(折衷方式)など各種のものがある。しかし、算定方式のいずれを採用するかによって金額が大きく異なるときがある。算定根拠については、裁判例上も一定していない。
 このようなことからして、新株発行が「特に」「有利な価額」というためには、これら全ての計算式によっても有利発行といえる場合でなければならないとする文献もある。

 一般に新株発行は、資金調達の目的でなされるものであり、返済の必要がないことから借入に比べて有利ではある。しかし、多くの裁判で、資金調達目的ではなく、現経営陣が自派に株式を割り当てて経営権を支配することが本当の目的だとして、議決権割合が低下する株主から、「著しく不公正な」新株発行であるとして差し止めの仮処分が出されてきた。
 そもそも、新株の有償発行は株式会社に現実の資金流入をもたらし、会社に具体的な資金需要があれば、もっぱらこれを補うために新株を発行すること自体正当な目的であり、取締役会による新株発行権限の適正な行使ということになるから、資金需要が具体的にあれば裁判所は不公正だという判断をしていないようである。

 また、近時の裁判例では、新株発行が複数の目的を持つものである場合に、当該新株発行の主たる目的が何であるかという主要目的ルールに従って判示している。
 支配権獲得目的といわれる場合は、多くは公開買付ではなく、第三者割当の増資の場合であるが、その第三者が、元々当該増資をする法人と関係が深い場合には、関係強化のためということで目的が正当化される傾向にあるようである。

 判例上はそれほど多くの事例がある訳ではない。私の事案も判例雑誌に載らないかなと思っている。
 事案によるので、裁判も勝ったり負けたりであるが、勝つとやはり弁護士としても気分はいいものである。


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