コラム

 公開日: 2010-05-26 

犯罪被害者遺族の苦しみ


 最近の無差別殺人事件では、新聞報道限りでは、「最初から殺すつもりでやった」などと被疑者は述べているということが多い。
 もちろん無罪推定の原則はあるものの、この被疑者が真犯人であるとすれば、なんともやるせない事件である。
 被害者には、遺族がいる。そうした遺族に思いを馳せる時、弁護士としての私の心は痛むのである。
 刑事事件で被疑者が死刑になったとしても、あるいは、無期懲役などの罪になったとしても、亡くなった人は帰ってこない。そして、刑事事件で罪を償えばそれで足りるかというと、亡くなった人の遺族に与える精神的衝撃もさることながら、経済的ダメージも大きい。ことに本件のように働き手を殺された事案ではそうである。
 犯罪被害者は何度も何度も苦しめられる。まず刑事手続きの中で、犯行が異常であればあるほど、「責任能力」や「量例相場」の壁などに苦しめられ、どれだけ望んでも死刑にならないことが多い。
 また、マスコミなどからの取材にも苦しめられる。弁護士が窓口になっていない事案では、マスコミからの取材に応じることも苦痛だろう。
 そして、経済的にも苦しめられることが多い。交通事故であれば自賠責で3000万円が補償されている。しかし、犯罪被害者の事件の場合、犯人には資力がないことが多い。
 民事訴訟を起こして判決を取得したとしても相手に資産がなければただの紙切れである。紙切れを取得して喜ぶ遺族はいまい。
 犯罪被害者給付金というものもあるが、死亡でも自賠責よりもはるかに低額の支払いである。
 我々弁護士は、こうした加害者そのものに資力がない場合、実質を勝ち取るために何らかの方策がないかを考える。ご本人が労災に加入している場合には、本件のような事案では仕事に関する危険が顕在化したと見て、労働災害として捉えられないかを考える。
 ただ、これは仕事中でなければならないので被害者が仕事中以外では使えない。
 加害者が職務中であれば、その使用者(多くは企業)に対して使用者責任を追及することが考えられる。
 しかし、多くの事件では、仕事とは無関係なところで事件を起こすし、本件のように、「人に危害を加えるかも」という言葉を職場で言っていた程度では、なかなか裁判所は職場の企業の法的責任を認めない。
 やはり、こうした犯罪は社会全体が抱える病巣のようなものであり、いらない税金を使うよりは、一定の犯罪被害者について、経済的補償をすることが施策として求められているであろう。
 具体的には、政府が犯罪被害者に対して賠償金を被疑者・被告人に成り代わりいったん立て替えて支払い、その後被疑者やその法的結果に責任を負うべきものから取り立てるということが望まれると考えている。逃げ得を許さないためには国家権力の強い取立が必要であろうし、国が支払うことによって、犯罪によって全てを狂わされた犯罪被害者の人生を少しでもよいものに出来るからである。

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