コラム

 公開日: 2011-10-21 

前田慶次郎3

 退却戦は困難である。戦国時代の死者のほとんどは退却時のものだともいわれる。
 殿(しんがり)を務める軍勢はややもすれば全滅するほどの危険がある。
 直江兼続はこの戦いにおいて主将自ら殿軍を引き受けた。

 執拗な最上軍の追撃に継ぐ追撃に、旗本も討たれ、直江兼続もいよいよ自決を覚悟した時、切腹しようとしている直江を前田慶次郎が押しとどめた。
 その後、とって返して1人で最上軍と直江軍が戦っている前線に槍を担いで突撃し、最上軍を蹴散らしたのであった。最上軍は鬼神のような慶次郎の働きにおそれをなし、崩れ立ったのである。
 これにより、直江軍は最上軍の追撃を振り切り、無事帰還できた。

 慶次郎は身長が当時の日本人に比べて巨大であった(平均成人男子で150センチほどであったといわれている。慶次郎は170~180センチ)ので、今でいえば2メートルくらいある巨人が巨大な槍を振るいながら突撃してきたようなものであったろう。

 隆慶一郎作品では、巨馬に乗った慶次郎が突撃することになっているが、長槍に対して馬で突撃すれば馬が串刺しになってしまう。この点、海音寺作品では徒歩で突撃したことになっている。私は海音寺の説を採りたい。

 このような武勇は過去にも聞いたことがない為、慶次郎の武名はいやが上にも高まったであろう。当時(1600年)はまだ戦国の気風が残る時代である。
 諸侯は争って慶次郎を召し抱えようとしたと思われる(上杉家は戦時中だけ召し抱えられたので戦後牢人)。しかし、その後の慶次郎の足跡については定かではない。
 前田家に戻り利家のもとで死んだとする説もあるが、有力な説は上杉家に再度禄を得て、米沢で死んだというものである。
 利家のもとに還る理由もないであろうから、やはり上杉家に仕えたのであろうと思われる。
 慶次郎が大阪の陣には参戦した記録がないので、老齢を理由に(慶次郎は利家や家康とほぼ同年代)、参戦しなかったのか、あるいは大阪方をなぶり殺しにするような戦いは慶次郎の好むところではなかったため参戦しなかったのかはわからないが、関ヶ原以後は戦いには参戦しなかったのではなかろうか。

 伝わる説では、慶次郎は異風の衣装を好む傾奇者であり、古典や式典に通じる一流の文化人であったとされている。一族である加賀百万石の祖である前田利家も若い頃は、傾いた衣服や甲冑を好んでつけていて、「槍の又佐(またざ)」と言われていたことからして、前田一族は傾いた風を好むところがあったのかと思われる。
 その他、秀吉から天下一の傾奇者として御免状をもらったという話(可観小説にある)があるが、真偽の程はわからない。仮にそのようなことがあったとすれば、秀吉にとって盟友である前田利家の甥であることがそのような御免状を出すことに影響していたと見るのが妥当だろう。
 
 なお、隆慶一郎作品では、前田利家は慶次郎を際だたせる為に無能な男として描かれているが、現実の利家は優れた戦国武将であり、若い頃は槍の又佐として名を馳せた勇者であったから、この点では隆慶一郎の描く利家の実像とはかけ離れているものといえる。

 最近はパチンコにされているようであるが、このことを知ったら慶次郎は何というであろうか。

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